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院展とシェル美術賞展 あるいは老衰した若者たちによる死んだ絵 [美術]

先週、銀座の某画廊で阿部清子さんの個展を観た。巧くなっていて驚いた。今までは、一点か二点いいのがあって他は空振り気味ということが多かった。今回は違った。どの絵も一定の水準をクリアしていた。かと言って小さくまとまっているところがない。一歩でも二歩でも前進しよう、格好つけても仕方ない、醜態を晒してでも描き切るんだ…、そんな画家の気合いがヒリヒリと伝わってくる。

同じく個展をやっていた赤塚祐二さんにも同じような姿勢を感じた。前回までに一定の完成を見た横軸を駆使するスタイルを臆せずに崩して、垂直方向にノイズを入れる試みが面白かった。前のめりに、死にものぐるいで描いているのがわかる。無茶苦茶に描いているように見えるかもしれないが、よく見ればどんな細部も一々理に適っている。あざとく狙ってそうなった、というより、必死にやってたらこうなったという絵だった。この人は並外れた技術をひたすら推進剤として使う。決してひけらかさない。

本来なら全ての画家が二人のような姿勢で描くべきなのだ。

巧くなると技術によりかかって守りに入る作家が多い。最後は技術を駆使するというより、描き手が技術に酷使されて絵が死んでしまう。阿部さんや赤塚さんにはそういうところが微塵もなかった。

阿部さんや赤塚さんのおかげで、9月に院展を観た時に感じたフラストレーションの正体が解った。特に若手の作品が手先に頼りすぎて退屈だった。工芸と絵画の違いとは何かという基本的な問いを失うと、無意味で窮屈で、要するに死んだ絵になる。絵を描く目的を見失うと、絵具が盛られたただの板になる。

少し前まで散見した、元気のある若手作家たちをどうして落選させたのか。彼女ら・彼らの絵には技術的に未熟なところがあったとしても、小賢しさはなかった。破綻があったとしても、それは小器用にまとまめることを潔しとしなかった結果だった。日本画の世界に職人的な伝統が根強く残っているのは悪いことだとは思わない。ただし、それは無難にまとめること、無理をするより欠点を取り繕うことを推奨することとは別問題だ。平山郁夫さんが亡くなった直後で、慎重になっているのかもしれないが、審査する側がこういう姿勢では若手が育たなくなる。

同じような危惧を今年のシェル美術賞展にも感じた。

断っておくが、橋爪彩さんや阪本トクロウさんが出ていた回ほどでないにしても、今年は決して悪くなかったのだ。昨年以前の数年は論外だった。審査する側も描く側も技術を軽視しすぎていて、観るにたえない絵が多かったものだ。小学生の図工じゃないんだから、稚拙な自己表現に留まっているものを評価するなよと言いたかった。

今年は明らかに違う。中には「あれ?」というものもあったが、概ねちゃんと描ける入選者ばかりだったし、手が追いついていない思いつきや消化不良の猿真似が少なかった。格段の進歩なのだけど、何か物足りない。例外もあったし、他の絵も見てみたい人もいたが、全体に元気がない。おめえら若いのに守りに入ってどうすんのよ、と、思った。

美大の卒業制作展のほうが面白かった。あそこには切実な絵が並んでいる。これを最後に制作止めますって学生もいる。恥も外聞もない。凡打を放った高校球児がファーストにヘッドスライディングするような必死さが伝わってくる。シェルにはそれがなかった。繰り返すが、昨年以前に較べたら格段に良くなってはいる。技術も切実さも皆無な作品を見せられた怒りは感じなかった。歯痒さを覚えただけだ。

相撲じゃないけど、絵も心技体の世界だ。若くて体力もある。予備校や大学である程度の技術も身につけた。なのに失敗を恐れない強い心がない。何のために描くのか、考えた形跡が見られない。そんなことで生き残れるほど美術は甘くない。今からでも遅くない。地方公務員試験の勉強でもしたらどうか。絵具の代わりにスーツを買って就職活動でもしたらどうか。公務員もサラリーマンもしんどいが、不毛な制作活動を続けるよりは生産的だろう。

今年のシェルは審査員が最低限の責任を果たしたのではないか。ただ、出展者の多くが疲弊し、老衰し、恥をかくことを恐れ、守りに入り、志と目的意識を見失い、死んだ絵を描いていたのが残念で退屈だった。院展然り。由々しき傾向だ。これが美術界全体に蔓延されるとつまらない。ちゃんと指摘しておかねばなるまい。

小さくまとまるんじゃねえぞ。額を棺桶にするじゃねえぞ。と、若年寄たちに百万回でも繰り返したい。
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